コートやスーツの裏地によく使われているキュプラ(ベンベルグ)という素材についてご存知でしょうか?裏地は肌に接する部分なので、表地と異なり滑りが良く肌に優しい素材が使われています。裏地の素材のなかでも特に優秀なキュプラについて詳しくご紹介します。
目次
キュプラ生地の特徴
キュプラとは?
スーツの裏地に使用されることが多いキュプラは、レーヨンと同様に再生セルロース繊維と呼ばれるカテゴリーの中の化学繊維です。天然の綿でも本来繊維として使用されない産毛部分であるコットンリンターを、酸化銅アンモニア溶液で溶かして加工している銅アンモニア法(Cuprammonium)という製法によって作られるため、『銅』という意味である”キュプラ”と名付けられました。
本来は使用しない綿の産毛部分を利用しているため、再生繊維ともいわれています。天然素材の綿由来でありながら、天然繊維独特の太さのムラがなく、細くて真円に近い断面となっています。天然由来の原料であるため、合成繊維のポリエステルと異なり廃棄されても自然に力で分解できて土に還ります。
ベンベルグとは?
旭化成のキュプラ繊維の商品名が『ベンベルグ』で、日本ではキュプラの代表的な名称となっています。素材表示欄にキュプラ(ベンベルグ)と表記されていることもあります。
キュプラ生地のメリット・デメリット
メリット
静電気が起きにくい
繊維に水分を多く含むため、静電気が起きにくいです。洋服の裏地は他の衣類と摩擦しやすいため、静電気が起きにくいことが着心地を良くするには重要となります。
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目には見えない小さな水分の通り道から、素早く湿気を吸い取り吐き出すため、一年を通してムレやベタつきを抑えて常にさわやかな着心地を保てます。肌表面の熱を水分によって外へ逃がし夏は涼しく感じる一方、冬は体から湿気を吸収して熱エネルギーが発生して暖かく感じます。さらに、表地や上着に熱を逃がしにくい素材を利用すればその暖かさの効果が上がります。
肌に優しい
滑らかで肌への刺激が少ないため、敏感肌を傷つけにくく柔らかい触り心地です。それは、繊維の糸の表面が柔らかで、断面が真円になっているからです。旭化成が行った素材による皮膚への摩擦テストを行うと、綿に比べて皮膚へのダメージが少ないことがわかる結果が出ています。
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光沢があり深く染まる
繊維の表面が滑らかなため軽やかな風合いで、染色が深く染まりやすいため深みのある色と光沢性があります。
デメリット
摩擦に弱い
摩擦によって毛羽立ちやすいです。汚れたときは擦らないようにしましょう。
水染み
水に弱いため、水に濡れるだけで水の輪染みができることがあります。水染みはドライクリーニングでは除去できないため、水洗いによるウェット加工・ウェットクリーニングなどのクリーニングをする必要があります。但し、水によるクリーニングはキュプラがそもそも水に弱いことから縮むなどのリスクがあります。
伸縮性が低い
綿や麻ほどではないが伸縮性が低いため、シワがつきやすいです。熱には弱くないため、当て布をして中温もしくは低温でアイロンをかけることは可能です。
洗濯できないことが多い
水に弱いため、洗濯表示で洗濯不可になっていることが多いです。
レーヨンほど水に弱くありませんがクリーニングに出すことをおすすめします。
キュプラ生地と同じ再生繊維のレーヨンとの違いは?
レーヨンは絹に似た素材を作ることを目標に、1番に生み出された化学繊維です。キュプラは綿の産毛(繊維質・セルロース)が原料になっているのに対して、レーヨンは木材パルプに含まれている繊維質を材料にしています。天然繊維を材料に薬品で溶かして細長い繊維にする再生繊維という点では同じで、性質もよく似ています。
キュプラとレーヨンはともに絹を目標としていたことから、光沢性・染色性・ドレープ性とメリットがよく似ています。シワになりやすい・水に弱いなどのデメリットも似ています。
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キュプラの方が滑らか
キュプラは断面が真円で、レーヨンは菊花状で凸凹しているため肌への滑らかさはキュプラの方が優れているため、キュプラの方が裏地としては優れています。
キュプラの方が水への耐久性がある
キュプラとレーヨンともに水に弱いのですが、キュプラの方が水への耐久性があります。
キュプラの方が伸縮性がある
キュプラとレーヨンともに伸縮性は低くシワになりやすいですが、キュプラの方がシワになりにくいです。
キュプラの取り扱い方法
レーヨンほどではなくとも水に弱ことにかわりないため、プロの手を借りてドライクリーニングをしてもらうのがおすすめです。もし、ご家庭で洗濯をするのであれば水に弱いため手早く3分以内にとどめましょう。
洗濯表示を確認
手洗い可能な場合
- (旧)…手洗いと書いてあれば手洗いが可能です。
- (新)…洗濯桶に手が入ってる絵が書いてあれば手洗い可能です。
洗濯不可の場合
(旧)(新)洗濯桶にバツが書いてあれば家庭で洗濯はできません、クリーニング店にお願いしましょう。
準備するもの
- おしゃれ着用中性洗剤
- 洗濯ネット
- タオル
洗濯方法
シミ・水染みができた場合
洗濯ができる場合は、水洗いをすれば除去できます。洗濯ができない場合、擦り洗いをすると毛羽立ってしまうため乾いたタオルでたたきます。水染みの場合は、スチームアイロンをかけると除去できる可能性があります。
それでも取れない場合は、クリーニング店にお願いしましょう。但し、水染みはドライクリーニングだけでは取れない可能性があるため、クリーニング店に水染みの部分を伝えて相談してみましょう。
シワ取り方法
洗濯表示に従い、当て布をして低温・中温にしてアイロンをかけシワを取りましょう。
裏地に使用されるキュプラと他繊維との違いは?
快適性の再生繊維〜レーヨン〜
キュプラと同様の滑らかさを持っていますが、繊維がキュプラより太くて断面が菊花状で凸凹しているため滑らかさはキュプラに比べると劣ります。
希少性の高い半合成繊維〜アセテート〜
木材パルプを無水酢酸と化学反応させて作った半合成繊維です。吸湿性はキュプラとレーヨンの半分程度で、静電気が起こりやすいです。また、断面が梅花状で滑りやドレープ性が悪いです。強度が弱いため、ポリエステルなどの他の繊維と混合して使用されます。
機能性は劣りますが、シルクのような優雅な光沢と手触りで、生産量が少なく希少性が高いです。国内では三菱レーヨンしか生産しておりません。
利便性が高い合成繊維〜ポリエステル〜
石油などを原料とした樹脂(プラスチック)を糸にした合成繊維のひとつで、家庭で洗濯できシワができにくく強度もあって長持ちするため、使い勝手が良いです。一方、静電気が起きやすく吸湿性が低く、風合いは硬いです。
ポリエステル生地の特徴は?用途・扱い方・他の生地との違いも常用しにくい高級な天然繊維〜シルク(絹)〜
シルクは、蚕の繭からとった天然繊維で、現在裏地としては着物や高級品などの限られた衣類に使用されています。シルクならではの優雅な感触は素晴らしいのですが、高価なうえ、家庭での洗濯が困難で変色しやすく、虫に喰われやすいことから常用に向きません。
キュプラは絹のデメリットである”変色しやすい・虫に喰われやすい・高価”という点を補ったうえで光沢・染色の深さ・滑らかさ・静電気が起きにくいというシルクの良さを兼ね備えているため、裏地としての着心地の快適さが優秀です。
しかし、ポリエステルのように丈夫ではないため家庭で洗濯機で洗えない点がデメリットと言えます。
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直接肌に接する裏地は触り心地が大切です。またスーツやコートであれば裏地がちらっと見えることもあるので、キュプラの染色の深さや光沢は見た目の印象にも影響を大きく与えます。裏地の中で優秀なキュプラは取扱には気をつける必要がありますが、着用したときの快適性の良さは間違いないでしょう。